カテゴリー
音楽療法

二重課題

2021.06.19(土)
高次脳機能障害 3人グループ
の音楽療法セッションでした。

今回、初めての試みとして
「故郷(ふるさと)」の歌を歌う前に、
歌詞(うさぎ追いし かの山〜)をクライアントの1人に、
ホワイトボードに板書していただくことをお願いしました。

この方は以前脳梗塞を患い、高次脳機能障害となった方です。
短期記憶が悪く、直前のことは忘れてしまいます。身体に麻痺などはありません。

なぜこのプログラムをしようと思ったかと言いますと、
4月のセッションで、「花」の歌詞(春のうららの隅田川)を、
私が板書した際に、少し間違えたり、漢字がパッと思い出せなかったりしたため、
それをその方が教えてくれながらサポートしてくださった。
という一件があったのです。
このため、せっかくなら本人に書いてもらうことで、
ご自分の自信に繋げることができるのでは?という期待があったのです。

結果は果たして…
私が思っていたようには、スムーズには行きませんでした。
この方は、
①座っていれば歌詞はそらで思い出せます。
②ペンで文字を書くこともできます。

ですが、
③歌詞を 1.思い出しながら、2.前に出てホワイトボードに書く
という「二重課題*」に取り組むのが難しかったのです。
 *二重課題:2つの課題を同時に行うこと

実際、他の座っていた2人は歌詞をそれぞれに思い出しながら、
口々に言ってくれていました。
彼らは、口で言うだけだったからできていたのです。
おそらく、この2人にも板書をしてもらったら、
上記の方同様だったかもしれません。

◆二重課題に取り組むのが難しい、というのは
高次脳機能障害の特徴の一つです。◆

ホワイトボードに書く作業をしてくださった方は、
後ろで口々に言ってくる外野の声に惑わされ、
自分のペースで歌詞を思い出すこともできず、
「それから?なんだっけ?」と人に聞きながら、
言われるがままに、かろうじて板書はしたものの、
ほぼ全てがひらがなでの板書、という結果となりました。

これは、私にとって思いもよらない結果でした。
日ごろ、私も含めみなさんも、今やっている作業が
「二重課題(または三重課題)」かどうかなんて考えながら生活していません。
歌詞が思い出せるのだから、あとは書くだけでしょう。と思いますよね。
 歌詞を1.思い出しながら2.板書する。
これって二重課題なんですね。
先生に指摘されるまで、私は気づくことができませんでした。

改めて、高次脳機能障害という病気について、
もっと深い理解が必要であることを痛感した出来事でした。
さらに、
この課題を繰り返し行なっていくことの重要性も発見できました。

今回の私の反省点としては、下記のことが不十分だったことが挙げられます。
・まずクライアントのペースで歌詞を思い出せる環境を作る。
 →他の方には静かにしてもらう。
・「書いてください」と指示するだけではなく、
 自分の力で、できるだけ漢字も使用して書くよう指示する。

明確な指示を出すことは、セッションリーダーにとって、とても大切な役割です。
次回のセッションに向けて、新たな目標ができました。

板書していただいた後は、皆で「故郷」を歌い、
「ふるさと」と聞いて思い出すこと、などを一人ずつ質問。
最後にもう一度皆で歌ってセッション終了となりました。